研究領域の背景・目的
脳機能の発現に必要な最小単位は何だろうか?大脳皮質は、様々な内外情報に対して、選択的に情報処理を行う局所領域の集合体です。各領域において、機能的順位の高い細胞が存在すると考えられています。この細胞は多数の細胞に対して影響力(活動相関)を有することから、ハブ細胞と呼ばれます。ある局所回路内のハブ細胞の活性化は、周辺の細胞を賦活し、脳機能を発現させることが知られています。では、こうした局所回路の活性化は脳機能発現の必要十分条件となりうるのでしょうか。近年では、領野間相互作用により脳機能が発現すると考えられています。ハブ細胞の特性から推測すると、脳領域間相互作用にはハブ細胞が関連していると考えられます。私たちは、ハブ細胞を軸とした脳領域相互作用メカニズムの解明が、脳機能発現の謎を解き明かすヒントになると考えています。しかし、これを検証するためには単一細胞レベルで領野間活動を観察する必要がありますが、顕微技術の限界のため、革新的な問いは手つかずのままでした。すなわち、情報伝達の要となるハブ細胞が脳領域間相互作用に関連するのか、関連するとしたらどのような要因によってハブ細胞と運命づけられるのか、ハブたらしめる形態特徴(剛的特徴)と遺伝子発現特徴(軟的特徴)は全く未知のままでした。
本領域研究の目標
1)超広視野2光子顕微鏡を用いることで観察限界を突破し、個々の神経活動情報をもとに領域間での相互作用の要となるハブ細胞を同定する。
2)神経活動情報と遺伝子発現情報を統合させる新規の技術基盤を確立し、同定したハブ細胞の剛軟因子、すなわち神経細胞形態(剛)と遺伝子発現変動(軟)を多角的に探索することで、脳機能発現に重要なハブ性決定要因を解明する。
3)新規解析基盤により得られたハブ決定因子をもとに疾患原因探索を行うためのパイプラインを開発し、将来的な疾患モデルへのトランスクリプトームファーストアプローチのための基盤づくりを目指す。